決戦はVALENTINE

                                                                               (side 大石)




     


『俺の男に手を出すな!!!!』


『何だよ!大石は俺の大石じゃないのかよ?』



英二の叫び声が頭の中で木霊する。

今朝からなかなか会えなくて、やっと会えたのに英二の話をちゃんと聞こうとせずに、 英二に手塚の罰走をそのまま受けさせて・・・怒らせて・・・

英二をこんなに追い詰めて泣かせてしまうなんて・・・

英二・・・・ごめん。






だけど英二がそんな風にやきもちを妬いてくれるのは、凄く嬉しくて・・・

それが二人っきりの時ならもっと良かったんだけど・・・

皆が見てる前じゃその喜びも半減というか・・・

英二は俯いて泣いてるから、気付いて無いだろうけど・・・



さっきから乾が俺達を交互に見ながら、ノートに色々記入し始めていて

不二は肩を揺らしながら、必死に笑いをこらえていて

タカさんはウンウンってなにか納得したように微笑んでいて

桃は口をあけたまま固まっていて

海堂は顔を赤くしながら、不自然なほど、俺達を見ないようにしていて

手を払いのけられた手塚にいたっては、まだそのまま固まっていて

俺はいきなり起こった出来事に、どうしていいかわからないでいる。


だけど泣いてる英二をそのままに出来ない・・・

それはわかっていて・・・



自分の顔が真っ赤になっているのを、なるべく皆に見られないように隠しながら、 ラケットバッグからタオルをとって英二に渡す事にした。

なるべく自然にいつも通り話しかける。



「英二。これで顔拭いて」

「大石・・・」



涙を拭いて英二が顔を上げた。

その顔はまだ拗ねていたけど、俺は英二に制服を差し出して着替えるように促す。



「早く着替えて帰ろう」



英二は小さく頷いて、黙ったまま着替え始めた。

俺はそれを確認して固まったままの手塚に話しかける。



「手塚ごめん。今日の部室の戸締り頼めるかな?」

「あっ・・・あぁ。わかった」



手塚の了解を得て、俺は自分の荷物と英二の荷物を抱えて、英二の横に並んで耳元で囁いた。



「英二。コンテナまで走れる?」

「へっ?」



いきなり言われて英二は戸惑っていたけど、俺はそのままの英二の手を強く握り締めて、部室のドアの方へ移動する。


本当ならすぐにでも部室を出たい。

みんなの視線が痛くて、俺達の・・・俺の反応を見てるのかな?

なんて思うと逃げ出したい気持ちになるけど、英二の気持ちに答えないまま、 ココを出るわけにはいかない、そんな気がして・・・

それにみんなに対しても・・・・

みんなが今の俺達をどう見ているかはわからないけど、何も言わず部室を後にする事は出来ない。

うまく言葉に出来ないけど、精一杯の俺の答え。

俺は皆の方に振り向いた。



「みんなごめん。そういう事だから、今日は英二と先に帰るよ」



みんなの視線が繋いだ手に集中してるのはわかっていたけど、手は離さずそのまま部室を後にした。

部室を出たら、またたくさんの女の子達が待ち構えていたけど、俺達はその中を振り切るように全速力で走りぬける。


走って・・・走って・・・ようやくコンテナに辿り着いた。



「ハァ〜〜やっと着いた・・・英二大丈夫?」



ハァハァと息を整えながら英二に問いかける。



「大石・・・手が痛いよ」

「あっ!ごめん」



繋いだ手を離さないように強く握り締めていたのを思い出して、俺は慌てて手を離した。



「英二・・・そのごめん」

「何が?」



首をかしげる英二を見ながら、俺は深く頭を下げた。



「英二の言う通りだよな。俺、英二が何で今日朝練に来なかったのか理由も聞かないで、 手塚の罰走をそのまま英二に受けさせて・・・

それに・・・英二がいるのにチョコ受け取ったり・・・

色々・・・ホントにごめん」



ホントは手塚の罰走の話が出た時に、俺が英二の話をちゃんと聞いてあげれば、こんなに怒らす事にならなかったんだよな・・・

昼間の事だって、ホントは会ってすぐに謝ろうと思っていたのに、何もかもが遅くて・・

英二・・・ホントにごめん。



「いーよ」

「えっ?」



許してくれるのか?

もっと色々言われるかと思っていたから、少し驚いて英二を見る。



「いいって言ってんだろ!それより・・・そういう事って何なんだ?」

「えっ?」

「だ・か・ら・・・みんなにそういう事だからって言ったじゃん!」



英二が少し顔を赤くしながら、聞いてくる。

その姿を見て、さっきまで部室で繰り広げられていたやり取りを思い出して、 俺も恥ずかしくなってきた。



「あっ!あぁ・・。アレは英二が大石は俺の大石じゃないのか?って言ったから・・」



言いながらますます顔が熱くなってきて、最後の方は言葉も上手く伝えられない。

だけど英二はそれだけでわかったのか、赤くなった顔を更に赤くして、俺が持ってる英二の荷物を指差した。



「大石。その・・俺の荷物」

「えっ?あぁ・・ハイ」



言われるまま荷物を渡すと、渡した荷物の中から紙袋を1つ差し出された。



「これは俺から大石にバレンタインのチョコケーキ・・・」

「えっ?」



俺は驚いて、英二の顔を見た。


俺にバレンタインのチョコケーキ?


英二は恥ずかしそうに、モジモジしながら話す。



「昨日コレを遅くまで作ってて、そんで今日寝坊して・・・

ホントは朝一番に渡したかったんだけど・・」



そうか・・・そういう事だったんだ。

英二が俺の為に・・・


俺は受け取った紙袋をジーッと見て、英二に微笑んだ。



「そうだったのか・・・嬉しいよ。ホントにありがとう」



ホントに嬉しい。英二がこんな事考えていたなんて・・・



「じゃあ。一緒に食おうぜ!!」

「えっ?ココで?」

「うん」

「じゃあ。何か飲み物でも買ってこようか?」

「んじゃ俺も一緒に行く!そんでもって早く戻って来て食べよ」

「ハハッ・・そうだな」



英二が俺の横に並んで歩く。

さっきまで拗ねてた顔が今は満面の笑みで俺を見つめる。

クルクル変わる英二の表情

笑ったり、拗ねたり、怒ったり、泣いたり・・・

とても目まぐるしくて目が離せない。



「ねぇ大石・・・さっき手塚に貰ってたチョコって何?」

「えっ?あぁ。あれはその・・・昼休みに女の子から貰ったやつで、英二が3階から見てて怒ってただろ?あの後英二を追いかけて、3階まで行ったんだよ。

その途中で手塚にぶつかってその時に貰ったチョコを落としたみたいで、手塚がそれを拾って渡そうとしてくれてたんだよ」

「ふ〜〜ん。そうなんだ」



あっまた口を尖らせて・・・拗ねたかな?それとも怒った?



「英二?怒った?」

「う〜〜ん・・・別に・・・」



別にって言いながら、俺を見つめる目は拗ねてるでも怒ってるでもないな・・・

これはいつも俺をからかう時に見せる、悪戯っぽい目・・・

何か思いついたのかな?



「大石・・・来年は誰からも貰うなよ!」



英二が俺の紙袋を指差して言う。


俺はそうきたか・・・と思いながら、その言葉に対抗して、英二の紙袋を指差した。



「英二もたくさん貰ってるみたいだけど?」



指摘された英二は、紙袋に入ったチョコを抱きかかえながら、ベーと舌を出した。



「俺はいいの!けど大石は受けとんな!!」



予想していた言葉が返ってきて苦笑する。

それを見た英二が俺の顔を覗きこむようにしてさらに付け加えた。



「大石は俺のだけで十分だろ?」



確かに・・・英二のだけで十分・・・っていうより英二のだけでいい。

本音を言えば、チョコだって無くてもいい。

英二が傍にいてくれるだけで、それだけで十分なんだ。


ニシシと笑う英二の顔を見ながら答えた。



「そうだな。英二のだけで十分だ」



俺の言葉に満足したように、照れながら笑う英二。

今日一日大変だったけど、英二の笑顔が見れて良かった。




来年は本当に誰からも貰わないように、努力してみようかな・・・



大好きな英二の為に・・・

                         


                                                                              END




ここまでくるの長かった・・・(笑)途中で英二視点ばっかり書いてる事に気付いて書き直しをしたりして・・・視点を変える必要あったのか?


と思ったり☆でも書ききったので良しとして下さい☆


ここまで読んでくれた方、ホントにアリガトネ!!

2007.2.14